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ワクワクするクルマが好き [車]

「車はスピードである」今から20年以上前、私はそう思っていました。
カタログを見比べては1馬力でも大きい車、あるいは最高速度が1Kmでも速い方が車として優れている。
当時東京で一人暮らしで、二十歳そこそこだった私は、そう思っていました。

鈴鹿で初めてF1があった時も、そのスピードに憧れて徹夜で車を転がして、見に行ったものでした。
(実際はそのスピードよりも、美しい音に驚きました・・・。ちなみに、効率を極限まで高めたエンジン音というものは、ちょうど金管楽器のような、本当に澄んだ奇麗な音がします。音量自体は大きくても、少しもうるさく感じません。当時のF1はターボ車がないのでタービン音もせず、純粋なエンジン音でした)
目の前を飛ぶように通り過ぎるF1を見ながら、圧倒的なその加減速の力強さに、私は魅了されていました。

ところがある日、そういう私の車観を、いとも簡単にひっくり返したのが、ホンダのS800という小さな車でした。

知人に「面白い物がある」と言われて、連れて行かれた砂利敷きの駐車場に、その車はありました。
ぼろぼろのビニールシートの下には、もっとぼろぼろの車体が横たわっていました。
私の生まれた年と大して変わらない年式の、今の車に比べおよそ馬力もなくスピードも出ないであろう車に、かなりな部分興味を失いながら、それでも試乗させてもらうことになりました。

カチカチと鳴る電磁式燃料ポンプの音を聞きながらキーをひねると、いとも簡単にエンジンはかかりました。
ぼぼぼぼぼぼぼぼぼ。小さいわりには結構低く響く音です。
アクセルにちょんと触るだけで、神経質に吹け上がろうとするエンジンに気を使いながら、ビクビクと走り出しました。

走り出して数10m。
駐車場から出て、ギアを2速に入れる頃には、すでに私はこの小さな車に夢中でした。
音ばかりでスピードも出ず、ガタガタと乗り心地が悪いだけのこの車は、それでも私が今まで乗ってきたどの車より、生き生きとしていました。
速ければ良い車、車は速くなければ面白くない。そう思ってきた私は、唖然としました。
スピードは出なくても、加速は悪くても…「面白い車」、今乗っている車がまさにそれでした。
現在でさえ、時速40Kmで走っても面白い車というのは、なかなか無いと思います。
鉄の板と分厚いガラスに囲まれて、外気と遮断され、只々高速で移動することを、今までどうして「面白い」と思っていたのだろうか?そんな疑問がわいてきました。

アクセルを踏む。エンジン音が上がる。スピードが上がる。風が巻く。
アスファルトのほこりっぽさと、オイルの焼ける臭い。
ブレーキを踏む。ボディが軋む。スピードが落ちる。ブレーキの鳴く音。
ペダルから伝わってくる、ブレーキドラムとシューが擦れる感覚。
ステアリングの先に地面が直結したかの様なダイレクト感。
シフトレバーを通して感じる、ボンネットの下でねじれて揺れるエンジンの様子。
ごく単純であたりまえなことなのに、一つ一つがどうしてこんなに楽しく感じられるんでしょうか。

そうこうして譲り受けたその車は、私にいろいろな思い出を残してくれました。
当時まだ手に入った新品のボディに載せ換えたくて、1年間昼食を抜いてお金を貯めたこと。
にわか雨に遭い首都高の下でつぶれた休日。
夏暑く冬寒く鼻の穴は黒く髪ボサボサで、女性には不評だったこと(大体が助手席に乗って楽しい車ではないし)。
信号待ちで隣に止まったタクシーのドライバーと話が弾んだこと。
燃料計が壊れていたので、いつもポリタンクを持ち歩いていたこと。
などなど、今となっては懐かしい、キラ星のような思い出の数々。

その後帰郷する際に一度手放しはしたものの、実家に帰ってきてからもその車のことが諦め切れず、結局またもや手に入れることを決意しました。
とはいえさすがに希少車。
気に入った車が見つかるまで5年もかかりました。

二代目になってから10余年の月日が流れました。
結婚し、子供ができ、生活環境も大きく変わりました。
それでも、ワクワクするクルマが好き。

かくして今日も私の家の車庫には、年に数回しか乗らない、ほこりまみれの車が眠っています。

何を隠そう、これこそ「私がカミサンに頭が上がらないワケ」でもあるのです。


タグ:Honda S800
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HIRO

初めまして、アクセル一踏みでとんでもないスピードが出る車より、面白い車が自分も好きです。今乗っている145も、信号で下手をすると軽のターボにも置いて行かれる事もありますが、楽しさは格別です。貴重な車ですが、天気の良い日には良い状態で走らせてあげて下さい。
by HIRO (2005-10-10 02:27) 

アキオ

あ、いいな。。

S8かぁ、、


確かに、新しいのに乗り換えると、とたんに
「あ、クルマじゃない自動車だ」と思う事ありますよね。
オイラは1990年のポルシェを持ってる人がいて、
一緒に転がしに行くんですが
何もない、、でかいエンジンを積んだだけのちっこいクルマ、
ただ頑丈なちっこいボディに古めかしいメカのクルマにのると
これ以上何がいるんだ、、って思います。

自分のクルマに乗り換えた瞬間、時代の違いとクルマそのものから受ける物の違いに驚きます。。

そういえば、昔、、、、

SR311に乗ってるかっこいい兄ちゃんがいて、、
うわうわうわ、、と自慢のソレックスの音に
「やっぱすげぇぇ」と目が☆になった記憶がよみがえりました。
がぼぉと、一気に吸い込むキャブの音、、、、
うう、やっぱ趣味ってそういう事なんだな、と若くないオイラは思っちゃったりもしますね。

ハイテク4駆の驚異的スピードが実現されてもなお
手に届くスピードでの感激、それをこの手のクルマ達は持ってると思います
ロードスターでやっと、薄く薄く残るにおい。。
いまは、こういうクルマ達の事をいとおしく思います。

エリーゼとか7とか、、、そういう物とも違う、乗るスタジーですね。
by アキオ (2005-10-10 19:25) 

ぽむ

そのボロ車に、たーっくさんの夢も希望も
楽しみもつんでいっしょけんめい走ってたんですね。
ボロ車も、GEN11さんも(*^-^*)
by ぽむ (2005-10-10 22:32) 

m-kurata

おっしゃる通り、身体に感じるものが多いほど、何かをかき立てられものではないでしょうか。
私も昔、友人から借りた HONDA N360が忘れられません。
当時はお金も無く、買えませんでしたが、今でも欲しいです。
思い出すと、オートバイのエンジンをブリキで囲ったような車でしたが。(笑)
今もバイクが好きなのは、身体に感じるものが多いからでしょうね!
by m-kurata (2005-10-11 00:47) 

GEN11

HIROさん
はじめまして。nice!&コメントありがとうございます。
いくらスピードが出ようと、自分の手におえないのではねぇ。
145も楽しい車ですよね。
お互い大事に乗りましょう。

akio_no_s30zさん
いつもありがとうございます。
そうそう、音もね、好きなんですよぉ。
グゴッォォォゴガァってキャブの吸気音がしないとね。
排気音だけじゃ寂しすぎます。

モコさん
nice!&コメントありがとうございます。
いろいろありましたが、困った時のほうが断然記憶に残っています。
でも今思うと、その時は困ったけどみんな楽しい思い出です。
今は二代目ですが、一代目の記憶がオーバーラップしてきます。

m-kurataさん
nice!&コメントありがとうございます。
エスもバイクと同じフィーリングです。
メットをかぶらずにすむだけ、気楽なのかもしれませんが。
身体に感じるものが多すぎて、まずはテンション上げないと乗り出せないのが、タマニキズです(笑)。
by GEN11 (2005-10-11 12:39) 

nal

ステキな話ですね。
ワタシも先日のスパイダーを維持出来ない自分にさんざん懲りたのですが、
やっぱり夢は諦めきれず。
毎日乗れないからストレスなんて考えなくても良いように、
そして覚悟が決められるように、昔から大好きだったクルマ、
完全に趣味のみのクルマを維持出来るようになりたいなんて考えています。
いつになるかわかりませんが、
オクタゴンエンブレムのワタシが生まれた頃にありふれていたオープンカー。
15年前から大好きだったアイツをやっぱり手に入れたいですね。

ただ、、、イイモノは年々減っていくんですよね、、、(微笑)
by nal (2005-11-17 13:47) 

GEN11

nalさん
nice!&コメントありがとうございます。
いつになるか…などと言わず、隙あらばいつでもの心境でお願いします(笑)。
おっしゃるとおり、時間が経つほど選択の幅が減っていきますし。
後で後でと思っていると、だんだん大変になっていくんですよね〜。
と、そっと背中を押しておきます(笑)。
by GEN11 (2005-11-20 06:56) 

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