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Vol.46 想い出のテラス 座キューピーマジック [座キューピーマジック]

キューピーマジック、久しぶりの新作。
実は今回、観に行こうかどうしようか、悩んでいました。
何だかちょっと気合いが入らないというか、その気にならなかったんです。
車買ったばかりで、お金もなかったし(汗)。
ところが公演がはじまる少し前、ある出来事がきっかけで、絶対観に行こうと決めました。

人生の歯車」でも少し書いたのですが。
つい先日、同僚が突然亡くなりました。
交通事故でした。
とても気持ちのいい若者でした。
私と同じく車好きで、仕事以外でもいろいろと話をしていました。
突然のことで、今でも相当にショックです。
それも、本人の結婚式の5日前のことでした。
衣装合わせの際の写真が、彼の遺影となってしまいました。
嬉しそうな、恥ずかしそうな、それでいてちょっと誇らしそうな、そんな表情の彼の遺影を見上げて、私は涙が止まりませんでした。
さらに追い討ちをかけるように、葬儀から会社に帰ってくると、生前彼と打ち合わせて発注した、リプレース用の彼のパソコンが届いていたり。

そこまで来て、私はとても腹が立ちました。
やり場のない怒り、ってこういう事なんでしょうね。
韓国ドラマじゃあるまいし、こんな馬鹿な話がありますか。
もしも神様や運命なんてモノが本当に存在するのなら、フザケルノモイイカゲンニシロバカヤロー、と叫びたいところです。
普段はお酒を呑まないのですが、この時ばかりは寝酒をしないと眠れない日が続きました。
それでも、やっと寝たかと思うと、嫌な夢を見ては飛び起きたりして。

キューピーを観に出かけたのは、彼が結婚式を挙げるはずだった、その日。
そんな日は、喪に服しているべきだ、と言われるかもしれません。
でも、この日、家にじっとしていたりしたら、精神的にどうにかなりそうでした。
こうなったら、人になんと言われようと、キューピーを観に行こう、と思いました。
家で涙をこらえているより、キューピーを観にいって泣いたほうが全然いい。
キューピーの公演を観て、思いっきりボロボロに泣いて来ようと思いました。

まぁ、そんなこんなで、かなり自暴自棄的気分で出かけた、今回の公演でした。

以下、ネタバレあります。
ご注意下さい。



さすがに、のっけから妻の葬儀の後のシーンでは泣きそうでしたが、ボロボロに泣こう、という私の意気込みは、見事に肩透かしを食らわされました。
静かに、淡々と進んでいく、キューピーマジックの舞台。
いつも居たはずの人が突然いなくなる。
悲しくても、辛くても、日常は続いていく。
いるはずの人がいなくなった日常。
それでも、人はそれを新たな日常として、つないでいくのですね。
いなくなった人を忘れ去るわけではなく。

最初から涙腺ユルユルで立ち向かった私ですが、意に反してキューピーは優しく包み込んでくれました。
泣き叫ぶ子供を優しく抱きしめる母親のように。

少しずつ子供達が独り立ちしてゆき、最後は一人になった父親。
舞台上にはまったく登場してこない妻ですが、父親が「そして誰もいなくなった…か」と周りを見回して黙り込む最後の場面に、そこにいるはずのない妻の存在感をとても強く感じ、印象的なシーンでした。
もしかして、この物語の本当の主人公は、亡くなった奥さんだったりするのかもしれない、とも思いました。
今の私の精神状態がそう観せたのかもしれませんね。

それにしても、この芝居。
かなり微妙な芝居です。
おそらく、今までのキューピーを観てきた人の中でも、賛否両論あるのではないでしょうか。
観る側を選ぶと言うか、若い方や、幸せ絶頂な方には、なかなか受け入れづらい作品だと思います。
誤解を恐れずに言うなら、馬鹿げたバラエティーや、芸能人のゴシップを追いかけているような方には、とてもつまらなく感じるでしょうね。
だぁぁぁ、なんつう排他的な発言だ。

ま、それはともかく。
余分な装飾は何もない。
声を張り上げて強く主張することもなく、地味で穏やか。
それでも、長い間丁寧に使われ、丹念に磨かれた、まるで匠の道具箱のような舞台。
歳をとるほどに見えてくる、と言うか、歳をとらないと見えて来ないような渋み。
逆に言うと、キューピーマジックもこういう芝居ができるようになった、と驚くべきことかもしれません。
今までよりもずっと、表現が広がった、と言うか、懐が深くなった、ということなんでしょう。
私が初めてキューピーマジックを観たのは、もう14年も前になりますが、それを思うと感慨深いものがあります。

感情を大げさに揺り動かすことなく、観る側の心に本当に自然に入り込んでくる。
役者が自然に見えるだけではなく、時の流れ、季節の移ろい、生活感、空気の匂い、そんなものまで自然に感じさせてくれる。
そんな舞台でした。

キューピーマジックは、また新たな領域に踏み込みつつある、そんな気がします。
皆さんはいかがでしたか。




私、ですか?
まぁおかげさまで、何とか立ち直りつつあります。
それでも、ご家族や、婚約者には、未だにかけてあげる言葉は見つかりません。


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GEN11

akioさん
そっとnice!をありがとうございます。
by GEN11 (2006-10-16 12:41) 

nal

心情を思うとコメントに詰まってしまって……スミマセン。
ナイスでもないですが、置いていきます。
by nal (2006-10-16 17:36) 

GEN11

nalさん
コメント付けづらい記事でしたね。
nice!をありがとうございます。
by GEN11 (2006-10-17 15:07) 

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