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Vol.63 宇津木彰のメランコリー 座キューピーマジック [座キューピーマジック]

キューピーマジック公演『Vol.63 宇津木彰のメランコリー』を観に行ってきました。
7年ぶり、『Vol.49 ライフ』以来の新作です。
これはもう無条件で行かなくては…と言いたいところですが、昨年の公演『Vol.61 想い出のテラス』以来、バタバタしておりまして…。

まず、親父が亡くなりました。
まぁ最後の5年間は半分寝たきりでしたから、いつかこの時が来るとは思っていました。
ラスト2週間の辛いことってなかったです。
そんなこんなで前回公演『Vol.62 僕と真夜中の僕』は結局観に行けずじまい。

そして年が明けて今年。
Vol.47 プリズマティック・オーシャン』でキューピーデビューしたウチのお姉ちゃんは、この4月から晴れて女子高生となりました。
これがちょっと…と言うか、大変な進学校(自称)でして、毎日毎日毎日毎日…勉強に明け暮れています。
毎日課題が山のように出るのは普通で、毎日テストがあり合格しないと放課後補習、さらには土日祝祭日もすべて学校を開けているのでいつでも登校して勉強しろ、という超スパルタンな学校なんです。
入学前にも結構大変な学校とは聞いていましたが、まさかここまでとは思いませんでした。
お姉ちゃんはそんな感じで綱渡り的な日々を過ごしており、こりゃキューピー観に行くのは難しいかな…と思っていました。

そしてさらには、土曜日は弟くんの学校の運動会。
土曜日の天気次第では日曜日にずれ込む可能性もあります。
ギリギリ、最後の最後まで予断を許さない状況でしたが、無事土曜日に運動会を終えたこともあり、お姉ちゃんには勉強道具を持たせてのキューピーマジック観劇の旅となりました。
机上の勉強も大切ですが、社会勉強、人生勉強もこれまた大切。

「学校よりキューピーマジックのほうが大切でしょ」
「往復8時間あるから車の中で充分勉強できる」

と言いくるめ…。
ひどい親だなおい(汗)。

またまた前置きが長くなりそうなのでこの辺で。
以下ネタバレあります。
ご注意ください。





何だろう。
すごくモヤっと…フワッとした感じ?
いろんな場面で説明が足りないというか、あえて説明しないということなんでしょうか。
観る人によって色々な取り方ができる脚本だね、とはカミサンと同意見。

一番の疑問は、あの元彼女たち。
いったい何だったのでしょう。
まぼろしなのか?幽霊なのか?それとももっと違う何か(何だ?)とか?
最初はまぼろしだと思って観ていたんですが、後で大家さんにも見えることがわかり、もしかして幽霊なのかと。
でも、元カノが4人とも死んでるってのもどうよ?と思い直し…。
精神的に追い詰められた主人公と大家さんの中に、何か同調、共鳴するものがあって、同じまぼろしが見えたとか?
なんて思っていると今度は「あなたの赤ちゃんが欲しかったわ」とかいう台詞にかぶせて遮断機の音が流れ、やっぱり死んでる?と思ったり。

それを言ったら父親もそうですよね。
生き霊なのか幽霊なのか。
見方によってはストーリーが色々な方向に膨らんでいきそうなお話です。

ワタシ的には「まぼろしと幽霊のハイブリッド説」(爆)だったりします。
そもそも舞台に出てくる父親も、実は父親本人ではなく、主人公が作り上げた父親像、まぼろしなんじゃないかな。
それは確かに厳しい父親ではあったんでしょう。

「不肖の息子だ!」

そんな風に言われたこともあったのかもしれません。
でも本物の父親はそれだけではなかったハズ。
何度も出てくる「言い返してみろ」という台詞が、ワタシには「私を乗り越えて行け」と父親がハッパをかけているように聞こえるんです。
そこには大きな親の愛情を感じます。

自分が作り上げた厳しい父親から独り立ちできず、もがき苦しむ息子。
そんな物語にワタシは受け取りました。

そうそうリーフレットには「ミッドライフクライシス」がテーマと書かれていました。
少し意味が違うかもしれませんが、小さい頃に受けた父親の印象が、かなり大人になってから、自己の存在を脅かすようなものとなる、そんな物語の象徴としての「ミッドライフクライシス」なのかな、と思いました。
そういえば舞台左手前に置いてあった小道具の本が気になった人はいたでしょうか。
舞台の上には他にも古本がたくさん積み上げられていましたが、ワタシにはこの一冊だけは作り物の本に見えました。
あえてわざわざそこに置かれているように見えたんです。
題名は…とよく見ると「HERPES」。ヘルペス。水ぼうそう、ですよね。
水ぼうそうも基本は子供の時にかかるものですが、場合によっては大人になってからも帯状疱疹などという形でもっと重い症状を発症することがあります。
これもまた物語を象徴しているように感じ、小道具さんのこだわりに感動しました。
…深読みかもしれませんけどね。





さて、ワタシの父親も厳しい人でした。
厳しい…と言うか自分勝手というかワガママと言うか。
もう死んじゃったから書きますが(死んだ人の悪口は言うもんじゃないって言いますケド)。
気にくわないと暴力を振るうこともしょっちゅう。
母親なんかいつも青タン作ってました。
自分が仕事してるのに、という気持ちがあるからか、ワタシが学校を休もうものなら(たとえ風邪で熱があっても)めちゃくちゃ怒られました。
だからどんなに具合が悪くても休まず学校に行きました。
逆に、学校にさえ行っていれば機嫌の良い父親でしたね。

ワタシは父親のことが人間として嫌いでした。
ホント、父親の一挙手一投足、存在が大嫌いでした。
だからワタシの居場所は学校にしかありませんでした。
卒業を迎え居場所のなくなるワタシは、家を出て、東京で一人暮らしすることに決めました。
働くという名目上、親父は「ダメだ」とは言いませんでしたね。
逆に「頑張れ」とも言いませんでしたが。

だからでしょうか。
主人公の父親に対する気持ち、すっごく良くわかります。
それはもうめちゃくちゃわかります。
離れていると特にかもしれませんけど、自分の心の中に勝手に父親像を作り上げてしまうんですよね。
ホントの父親がどうかなんて考えもしない。
自分が作り上げた父親像が絶対的な力をふるって自分自身を縛り付けるんですよ。

だから年月が経ち、父親が雪堀りで屋根から落ちて入院した時はビックリしました。
ワタシの中の父親はそんなヘマをする存在ではなかったから。
今考えると単純に歳を取ったということだけなのかもしれません。
なんだかんだありましたが、実の所、結局そんなことが実家に帰るキッカケになりました。



「不肖の息子だけど…これが俺の人生なんだ」

主人公の最後の台詞は、父親の「言い返してみろ」に対する答えなんだと思います。
きっともう父親の幻影も元カノの幻影も、二度と見ることはないでしょう。



冬場は雪のためお墓が作れず、これからようやく建設です。
なのでかれこれ半年以上、親父の遺骨は仏壇の前で偉そうにしています。
驚いたことに今回の公演を観終わった時、まず最初に思ったこと。
それは、親父に会いたいってことでした。
そして聞いてみたかった。

「オレに何か期待してたことってあった?」

どんなに問いかけてみたところで、今はもう、遺影が静かに笑いかけてくるだけです。



今回の公演はダブルキャスト。
ワタシが観たのはAパターンでした。
若手が中心の配役でしたが、すごく良かったですね。
公演の都度集めるキャストなのに、よくもこんなにベクトルをそろえたなぁ、って思いました。
Bパターンも観てみたかった気もしますけど、今回はもう充分満足です。

ただ、子供たちには少し早すぎましたかね。
あと30年くらいは経たないとこの演目は理解できないかもしれません。
だからキューピーマジックにはぜひとも30年後くらいに再演していただきたい。
オリジナルメンバーで、とは言いません。ご高齢でしょうから(笑)。
いやそれより、ワタシのほうが生きているか?って話ですね(爆)。



毎回毎回、自分の人生について、深く考えさせられたり、新しく気づかされたりする、キューピーマジックの素敵な公演。
何でしょう…こう思うのはワタシだけじゃないとは思うんですが、すごく個人的に(ワタシのためだけに)公演を打っていただいている気がして、とても嬉しい、贅沢な、ありがたい気持ちでいっぱいです。
客出しでは座長の田窪さんが他のお客様とのお話をさえぎって、わざわざお声をかけてくださいました。

「来年の5月にはまた新作を書きます」

すごいなー。
これからもまだまだ新しいキューピーが観られる。
人生これから。
長生きはするもんです。

皆さんはいかがでしたか。

vol63.png


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GEN11

AKIさん、makimakiさん
そっとnice!をありがとうございます。

by GEN11 (2015-05-30 11:06) 

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