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Vol.68 劇団胡蝶始末記 座キューピーマジック [座キューピーマジック]

座キューピーマジック公演『Vol.68 劇団胡蝶始末記』を観にいってきました。
期待膨らむ久しぶりの新作です。

地方に住んでいるワタシとしては土日くらいしか観にいける機会がないのですが、土曜日は今年春から大学生となった娘の部活のイベントがあったり、日曜日は中学三年生の息子の部活があったり。
ま、息子のほうは通常練習の日だったこともあり、顧問の先生にごめんなさいして、家族そろって観劇ツアーとさせていただきました。
これはこれで大切な社会勉強だ~、とか言いながら。
しかしこれが後にとんでもない社会勉強になることは誰一人知る由もありません…(汗)。

日曜日は楽日楽ステ。会場はいつものように満席でした。
いつも休日の観劇ということからか、最近は席が空いているところを見たことがありません。
さすがキューピーマジック!


さてさて。
前置きが長くならないうちに本題に入ります。
以下ネタバレあります。
ご注意ください。





とある劇団の年老いた座長が主人公。
座長をまかされてかれこれ25年。
おんとし72歳となる彼は、もうそろそろ後進に道を譲ろうと考えています。
劇団の中からめぼしい俳優を指名し、その中から次期座長を選ぶ、と宣言するところから、物語が大きく動き出します。

言ってみれば、内輪ネタ。楽屋オチなんですが。
これが単なる内輪ネタで終わらないところはさすがです。


昔一世を風靡したベテラン女優。
自分の感覚を信じて思ったとおりに突き進む売れっ子女優。
理論先行の頭でっかちで実力の伴わない俳優。
実力は認められてるが優柔不断でどっちつかずの俳優。
いろんな人のいろんな思惑が交差し絡み合って物語が進んでいきます。
いや、主人公の思うように進まない物語。
そしてなぜかそこに紛れ込んできた過去の自分。
今までの積み重ねてきた自分の経験を、まだ経験のない過去の自分に伝え、さらに自分を高めようとするが…。



かれこれ26年もキューピーマジックを見てきましたが、こんなキューピーは初めて観ました。
シリアスというかブラックというか。
飾りや遠慮もなく、そのままをぶつけられた感じ。
こんななりふり構わない脚本はキューピー始まって以来じゃないでしょうか。
もっと言うと、割れたガラスの破片を力いっぱい投げつけられた、そんな気がしました。
数限りないガラスの破片が突き刺さり、満身創痍といった気持ちで、ワタシは舞台の成り行きを固唾を呑んで見入っていました。



登場人物それぞれが違った個性を持っていて。
それがまた、いるんですよ、こんな人、あんな人。
考え方や行動がリアル過ぎます。
そんな一筋縄ではいかないような人たちを座長は束ねなければいけないわけで。
ある意味、企業での中間管理職的な見方もできます。
すごい身につまされます。
シャレにならない。

ワタシは大抵どんな人間も受け入れてしまう方です。
いろんな人からいろんな話を聞かされて、自分としては納得出来なくても、あぁそんな考えもあるのかぁ、と思って受け入れてしまいます。
だから他人を分析、評価するのがすごく苦手。
ここが良い、ここが悪い、というふうに見れないんです。
すべてをひっくるめて、それがその人の個性なんだ、と思ってしまうのです。
それを理解し納得できない自分は、逆に未熟なのだと情けなく、あるいは申し訳なく思ってしまいます。

しかし管理職としては面と向かって「あなたはここが良いがここはもう少し改善するべき」なんて言わなきゃいけない。
ちょうど今だと、夏期賞与の査定時期です。
マジで冷や汗が出ました。



かと思うと…。

座長が団員や過去の自分に対して自分の演技論をガンガン押し付けます。
相手がどう思うだろう、とか、反目されないだろうか、とか思わない。
いや思ってるのかもしれないが気にしない。
全然お構いなしです。
自分に対しての絶対的な自信。
自分は間違っていないという揺るぎのない気持ち。
すごいです。

これがまた、いるんです。こういう人。
あの自信はどこからくるんでしょう。
どうやったらあれだけの自信がつくのでしょうか。
ワタシには到底無理ですね。
ですがそこはそれ、まぁそういう人もいるんだ、と受け入れてしまうわけですが。

とか言うものの。
この観劇からさかのぼること、わずか20時間ほど前。
前日の夕飯時の出来事です。

息子は中学三年生。
今年度が高校受験なわけで。
彼は今、進路について悩んでいます。
文系に進むべきか、理系に進むべきか、それが問題だ、と。
そもそも自分が文系が好きなのか理系が好きなのか、それもわからない。
時と場合によって、文系に興味を持ったり、理系に興味を持ったりしてしまう、と。

ご飯を食べながら、食べた後も、話し合いました。
こんな時はこうだろう。こんな風に考えなければダメだろう。
時間を忘れて話し合いました。

でもこの舞台を観てて思ったのです。
ワタシが中学生だった時、いや今でも、自他共に認める理系なワタシ。
そんなワタシがいくら熱く語ったところで、文系理系で揺れる今の息子には的外れです。
まだ若かった頃の自分に、自分の演技論を押し付ける年老いた座長が、まるでワタシ自身かのようにダブって見えました。

「老害じゃん…」
ホントそう思いました。
この演目の台本で横っ面をひっぱたかれた気がしました。

オマエこそ、その自信はどこから来るんだ?
思わず赤面するのがわかりました。
客席が暗くてよかった…。



かと思うと…。

年老いた座長が劇団を次の新しい座長に託そうとする訳ですが。
自分が座長に指名された後にゴタゴタした経験から、いろいろと外堀を埋めてスムーズに次期座長に移行したいと画策するところとか。
年老いた女優が、自分ではもう演じることのできない配役に対して、自分の解釈を若手に押し付け横槍を入れるところとか。

ある意味、後継者問題、的な観かたもできます。
ワタシも定年まで後数年というところまで来ました。
若手にどう伝え、何を残していくのか。
それもここ数年ずっとぼんやり考えてきたことです。
キューピーはそれを改めてワタシの目の前に突きつけました。
これまた冷や汗が出ました。

業務の引継ぎ…。
少し前までは、今の自分がやっていることを逐一マニュアル化しておけば大丈夫、と思っていました。
でも最近はそれは違うと思い直しました。
今、自分がやっていることは、自分だからやっているだけなんだ、と。
ワタシのやり方を他の人に押し付けても意味がないのだ、と。
他の人なら、他の人でしかできないことがあるはずではないか?と。

だからワタシが本当に後継者にしておかなければならないことは…。
その人がその人なりのやり方でできるような環境を作っておくこと、ではないか。
今はそんなふうに考えを改めています。



とかね…。

細かく挙げればキリがありません。
とにかく一つ一つのシチュエーションがガラスの破片となって、ワタシの心と身体に突き刺さりました。
客出しでリアル座長である田窪さんに伝えました。

「観ててピリピリしました」

神経質という意味ではありません。
心に刺さったガラスがピリピリしたんです。
ズキズキともヒリヒリとも違う。

ある意味、気持ちよさも含んでいたのかもしれません。
今思い出してもピリピリします。
笑い事でもなく、泣き言でもなく。
キューピーマジックの心からの叫び声を聞いた気がしました。



一つ気になったのが劇団名の「胡蝶」。
後で調べてみるとなるほどと思いました。

その昔、荘子が夢の中で胡蝶になり、自分が胡蝶なのか、胡蝶が自分なのかわからなくなった、という故事に基づき、自分と物との区別のつかない物我一体の境地、または現実と夢とが区別できないことのたとえを「胡蝶の夢」と言うのだそうです。
ふふんそうか、青年が劇団胡蝶の稽古場で見た夢がそうだったのか、と一瞬思いました。
いや?でも後でこう思い直しました。

これは、舞台そのものと、そして観劇しているワタシたちを指してないか。
自分が座長なのか、座長が自分なのか。
いや人によっては座長じゃないかもしれませんよね。
観る人によって胡蝶はそれぞれ異なる配役、キャストなのかもしれません。

キューピーマジックの公演そのもの。
それこそが「胡蝶の夢」だったのではないでしょうか。

…いやそれは個人の感想。
皆さんに押し付けはしません(笑)。
十人十色、それぞれがそれぞれに感じればいいのでしょう。

とにもかくにも、こんなキューピーの公演は初めてでした。
皆さんはいかがでしたか?



おまけ:

カミサン曰く。
紅子さん演ずる往年の大女優が、故野際陽子演ずる月影千草のようだった!と。
確かにそうだ〜(笑)。

あとそれから。
「結局は夢オチかよ〜」と言うワタシに対して、息子の解釈はまた斬新でした。
あれは夢ではなく、若かりし座長が存在する世界と、年老いた座長のいる世界がたまたま交差した、パラレルワールドのお話なんだ、と。
さすがだな現役中学生〜(笑)。

それにしても、あのシーンは未成年にはちょっと…ね(汗)。
ま、社会勉強、なので(滝汗)。

vol68.jpg


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