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『祝婚歌(しゅくこんか)』吉野弘 [ちょっといい話]

先日、車の運転中に聞いていたラジオで、読まれたリスナーからのお便りに耳が留まりました。
そのお便りでは、コロナ禍で他人を簡単に攻撃する、最近の風潮を憂うと共に、ある詩を思い浮かべる、という内容でした。
そこで紹介されたのは、詩の中の一節だけでしたが、聞いていてハッとさせられました。

ラジオで聞いた一節:
 正しいことを言うときは
 少しひかえめにするほうがいい
 正しいことを言うときは
 相手を傷つけやすいものだと気付いているほうがいい

そうですよね。
正論で押してくる人、いますよね。
「それができないからみんな悩んでいるのに」
とか思うわけですが。
また、そういう人に限って、自分のことは見えていない。
「自分のことを棚に上げて」とか「おまえが言うな」とか「自分、何様?」とか。
そんな周りの反応に気づいているのかいないのか。

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(いらすとや)


ラジオでは、正義とは見方によって異なるものだから、相手のことを思いやる心が大切だ、と締めくくってました。
その後ワタシは、その詩がどうにも気になって、調べてググってみました。

するとこの詩は、詩人である吉野弘さんという方が、どうしても都合がつかずに出席できなかった、姪の結婚式に贈った詩、とのこと。
結婚に向けてのはなむけの言葉、と言うか、これから始まる結婚生活への心得、なんですが、心を静めてゆったりと眺めていると、ワタシにはどうも、人生そのものについて詠っているようにも思えてくるのです。

残りの人生、こんなふうに生きたい。
そして、この詩が、カミサンにも、子供たちの心にも、響くといいな。



『祝婚歌』吉野弘

二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと
気付いているほうがいい

完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい

二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい

互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで
疑わしくなるほうがいい

正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい

立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったりゆたかに
光を浴びているほうがいい

健康で風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい

『贈るうた』(吉野弘著、花神社)より『祝婚歌』全文転載
※作者の吉野弘さんは、この詩は民謡のようなものだと言い、著作権料は不要と明言しています。そんな吉野弘さんに敬意を表し感謝しつつ、ここに全文を掲載いたします。


贈るうた

贈るうた

  • 作者: 吉野 弘
  • 出版社/メーカー: 花神社
  • 発売日: 2006/10/01
  • メディア: 単行本




タグ: 祝婚歌
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